「工事が終わってみないと、儲かったのか赤字だったのか分からない」「原価はいまだにExcelで工事ごとに手集計している」「現場と経理の情報がバラバラで、粗利がリアルタイムに見えない」——こうした声は、規模を問わず多くの建設会社から聞かれます。見積もりの精度を上げても、実際にかかった原価と突き合わせて粗利を管理できなければ、経営判断は後手に回ってしまいます。
本記事では、建設業向けの原価管理SaaSの中から代表的な3製品「uconnect(ユーコネクト)」「どっと原価シリーズ」「勘定奉行iクラウド[建設業編]」を取り上げ、機能・料金・向いている会社の規模を比較します。建設SaaS全体の選び方については、まず建設SaaSの選び方完全ガイド|現場目線でわかる失敗しない7つの比較軸で7つの比較軸を押さえたうえで、本記事を読み進めていただくと選定の精度が上がります。また、見積もり・積算業務の効率化については別記事で比較を予定していますので、そちらもあわせてご確認ください。
この記事の対象読者
本記事は主に、工事別の収支・粗利を経営判断に活かしたい経営者・経営層と、日々の原価集計や工事台帳の管理を担う原価管理担当者・経理担当者を想定読者としています。施工管理全体の比較についてはANDPAD・Photoruction・KANNA徹底比較|施工管理システムはどれを選ぶべきかをあわせてご覧ください。
なぜ今、原価管理のSaaS化が必要なのか
原価管理のSaaS化が注目される背景には、主に3つの要因があります。
- 粗利が「終わってから」しか分からない:工事ごとの原価をExcelや紙の工事台帳で集計していると、進行中の案件の粗利がリアルタイムに見えず、赤字案件の発見が完成後になってしまう。
- 現場と経理の二重入力:現場で管理している実行予算・発注データと、経理が処理する支払・仕訳データが別々のシステムにあると、突き合わせ作業に多くの時間がかかる。
- 人手不足による経理業務の圧迫:原価集計や請求書発行に時間を取られ、本来注力すべき資金繰りや経営分析に手が回らない。
これらの課題に対し、クラウド型の原価管理SaaSは「工事別・案件別の粗利のリアルタイム可視化」「現場データと会計処理の連携」「クラウドでの情報共有」という形で解決を図ります。
本記事で扱う「原価管理SaaS」の範囲について
「原価管理システム」と一口に言っても、設計思想の異なる大きく2つの系統があります。ひとつは、工事別の原価集計や粗利管理そのものに特化したクラウドSaaS(uconnect、どっと原価シリーズのクラウド版など)。もうひとつは、会計ソフトの中に工事原価管理の機能が組み込まれた、いわば「会計ソフト一体型」(勘定奉行iクラウド[建設業編]など)です。本記事はこの両系統から代表的な3製品を取り上げて比較します。なお、見積もりから顧客管理・原価管理までを一元化した中小工務店・専門工事業向けのオールインワン型SaaS(アイピア、コンクルーAI、サクミルなど)については、見積もり・積算SaaSの比較記事で扱っていますので、そちらもあわせてご参照ください。
原価管理SaaSを選ぶ3つの軸
1. 原価管理の位置づけ
「現場・工事管理の一環として原価を見える化するツール」なのか、「会計ソフトの機能の一部として工事原価を扱うツール」なのかによって、日々の使い勝手や導入の主管部署(現場側か経理側か)が変わってきます。
2. 見積もり・実行予算との連携範囲
見積もりや実行予算のデータが、そのまま原価管理・粗利集計に連動するのか、それとも別途入力し直す必要があるのかは、日常運用の手間を大きく左右します。
3. 会計・請求システムとの連携
既存の会計ソフト(freee、マネーフォワード クラウド、勘定奉行など)とどう連携するか、あるいはそれ自体が会計ソフトとして機能するのかを確認しておく必要があります。連携方法によっては、二重入力の解消効果が大きく変わります。
原価管理SaaS 早見比較表
| uconnect | どっと原価シリーズ | 勘定奉行iクラウド[建設業編] | |
|---|---|---|---|
| 提供形態 | 原価・粗利管理特化のクラウドSaaS | 工事原価管理専用パッケージ(クラウド版あり) | 会計ソフトに工事原価管理機能を統合したオールインワン型 |
| 主な対象 | 工事業(一人親方〜年商10数億円まで幅広く対応) | 建設業全般(企業規模を問わず利用実績あり) | 中小企業(iAシステム)〜中堅・成長企業(iB)〜グループ企業(iS) |
| 原価管理の特徴 | 案件別粗利のリアルタイム可視化、見積〜請求まで一気通貫でデータ二重入力を削減 | 見積(最大6階層)・実行予算・原価集計・支払管理までを網羅 | 工事原価の自動集計と、決算・申告までを一体で処理 |
| 会計ソフトとの連携 | freee・マネーフォワード クラウドと連携 | 主要な会計ソフトと仕訳データを双方向連携 | 本体が会計ソフトそのもの(別途連携不要) |
| 初期費用 | 無料 | 要問い合わせ | 50,000円〜(プランによる) |
| 月額費用 | 7,200円〜(工事業向けプラン、税別) | 要問い合わせ | 27,500円〜(iAシステム、プランによる) |
| 無料トライアル | 30日間 | 明記なし(無料デモ・相談あり) | 30日間 |
※価格は本記事執筆時点(2026年9月)で各社が公開している情報に基づきます。プランの詳細や最新の価格は必ず公式サイトでご確認ください。
uconnect(ユーコネクト)
uconnectは、株式会社unlimitedが提供する原価・粗利管理に特化したクラウドソフトです。工事・案件ごとの粗利をリアルタイムで見える化することに重点を置いた設計で、見積もりから請求書発行までを一気通貫で行える点が特徴です。「工事業向け」「工事+販売向け」「案件型(IT・Web制作など)」の3プランが用意されており、建設業に限らず幅広い業種に対応しています。
初期費用が無料で、月額7,200円(税別)からとスモールスタートしやすい料金設計になっている点は、一人親方から中小の工事業者まで導入のハードルを下げる要因になりそうです。freee・マネーフォワード クラウドとの連携により、既存の会計ソフトを使い続けながら原価・粗利管理だけをuconnectに任せる、という使い方もできます。30日間の無料トライアルが用意されているため、実際の案件データで粗利の見え方を確認してから導入を判断できます。
どっと原価シリーズ
どっと原価シリーズは、株式会社建設ドットウェブが提供する工事原価管理専用のソフトウェアで、長年にわたり建設業界向けに展開されてきた実績があります。見積作成(最大6階層まで対応)から実行予算・予算履歴の管理、発注管理、原価集計、支払管理までを一気通貫でカバーし、主要な会計ソフトとは仕訳伝票データを双方向で連携できる設計です。
クラウド版はサーバーレスで運用でき、現場や自宅からのアクセスにも対応しています。他の2製品と異なり、公式サイト上では料金プランが公開されておらず、価格は問い合わせが必要です。導入実績の長さや機能の網羅性は魅力ですが、料金の見通しを立てるには早い段階での問い合わせ・見積もり取得が必須になる点は留意しておきたいところです。
勘定奉行iクラウド[建設業編]
勘定奉行iクラウド[建設業編]は、会計ソフト大手の株式会社オービックビジネスコンサルタント(OBC)が提供する、建設業向けに工事原価管理機能を組み込んだ会計クラウドソフトです。工事原価の自動集計、棚卸処理、証憑の入力・保管、決算報告書や資金繰り表の作成、消費税申告・電子申告までを一体で処理できる点が最大の特徴です。
プランは中小企業向けの「iA」、中堅・成長企業向けの「iB」、グループ企業向けの「iS」の3段階で、初期費用5万円・月額27,500円(iA)から利用できます。他の2製品が「原価管理ツール+会計ソフト連携」という構成であるのに対し、勘定奉行iクラウドは会計処理そのものが本体であるため、経理業務全体を1つのシステムに集約したい会社には選択肢になります。一方で、現場の実行予算管理や見積もり作成といった工事管理寄りの機能は、専業の原価管理SaaSに比べると手薄になりがちな点は理解しておく必要があります。30日間の無料お試しが用意されています。
経営者目線での選び方
経営者・経営層の立場では、「原価をどれだけ細かく記録できるか」よりも「粗利がどれだけ早く、正確に経営判断に使える形で見えるか」を軸に見るべきです。工事が完了してから赤字が発覚するのと、進行中に赤字の兆候が見えるのとでは、打てる手の数がまったく異なります。3製品はいずれも工事別の収支を可視化する機能を持っていますが、経理業務全体を集約したいのか、現場の原価管理を軸にしたいのかによって、選ぶべき製品の系統が変わってきます。
原価管理担当者・工事担当者目線での選び方
日々の原価集計や工事台帳の管理を担う立場では、「今までExcelや紙の台帳でやってきた集計作業が、どこまでシステムに移行できるか」が最大の関心事になるはずです。特に、見積もりや実行予算のデータを再入力せずにそのまま原価集計につなげられるかどうかは、日常業務の負担を大きく左右します。また、会計ソフトとの連携方式(自動連携なのか、CSVでのやり取りが必要なのか)によっても、月次の締め作業の手間が変わってきます。導入前の問い合わせ時点で、自社が使っている会計ソフトとの連携実績を必ず確認しておきたいポイントです。
Ochi視点:現場を見てきた立場からのコメント
ゼネコンの現場管理を10年経験した立場から見ても、「工事が終わってみないと儲かったかどうか分からない」という状態は、規模の大小を問わず建設業界に根強く残る課題だと感じます。特に、現場が把握している実行予算と、経理が処理する支払データが別々に管理されていると、月次の粗利報告が実態より1〜2ヶ月遅れて出てくることも珍しくありません。
ただし、正直にお伝えすると、私自身はuconnect・どっと原価シリーズ・勘定奉行iクラウド[建設業編]のいずれも実際の現場で使用した経験はありません。以下のコメントは「特定製品を使った感想」ではなく、現場を10年見てきた実務者としての一般的な視点であることをご了承ください。原価管理をシステム化する際は、現場側が実行予算や発注データを入力する手間を惜しまない運用にできるかが成否を分けると考えます。どれだけ高機能なシステムを入れても、現場からのデータ入力が後回しにされてしまえば、結局は「終わってみないと分からない」状態に逆戻りしてしまうためです。
導入時に確認しておきたいポイント
- 既存データの移行方法:過去の工事台帳・原価データをどこまで引き継げるか
- 見積もり・実行予算との連携範囲:見積もりや実行予算のデータがそのまま原価集計に連動するか、別途入力が必要か
- 会計ソフトとの連携方式:自社が使っている会計ソフトとの連携実績、自動連携かCSV連携か
- 現場からの入力のしやすさ:スマートフォンなど現場の端末から発注・実績データを入力できるか
- サポート体制:導入時の初期設定サポート、問い合わせ対応の窓口
まとめ
原価管理SaaSは、単なる「原価集計の効率化ツール」ではなく、工事別の粗利をどれだけ早く経営判断に活かせるかを左右する経営インフラです。原価・粗利管理に特化してスモールスタートしたいなら「uconnect」、見積もりから支払管理までを網羅した専用パッケージを求めるなら「どっと原価シリーズ」、経理業務全体を会計ソフトに集約したいなら「勘定奉行iクラウド[建設業編]」が、それぞれの検討候補になります。いずれも無料トライアルまたは無料デモが用意されているため(どっと原価シリーズは要問い合わせ)、実際の案件データで試算し、自社の原価管理の運用にフィットするかを確認したうえで導入を判断することをおすすめします。
建設SaaS全体の選び方を体系的に押さえたい方は、あわせて建設SaaSの選び方完全ガイドもご覧ください。
参考:各社公式サイト(uconnect / どっと原価シリーズ(建設ドットウェブ) / 勘定奉行iクラウド[建設業編])


コメント