この記事の対象読者
この記事は、主に土木工事会社の経営者・現場代理人(現場監督)の方に向けて書いています。「建築向けに紹介されているSaaSの記事を読んでも、自社の工種にそのまま当てはまるのか分かりにくい」「土工事・舗装・橋梁など、工種ごとに現場の悩みが違うのに、どのSaaSから手をつければいいか分からない」といった方を想定しています。あわせて、社内のDX推進を任されている担当者の方にも参考になる内容です。
なぜ土木工事会社にとって「工種別」の視点が必要なのか
建築工事と土木工事では、SaaS選びの前提となる業務構造がいくつかの点で異なります。土木工事は発注者が国・地方自治体などの官公庁であるケースが多く、電子納品要領への対応や、出来形管理・出来形図の作成が必須になります。また、国土交通省が推進するi-Construction(ICT施工)の広がりにより、ドローン測量やICT建機のデータをどう管理するかという論点も、建築にはあまりない土木特有の課題です。
さらに、公共工事は元請・下請間の労務安全書類の管理が厳格に求められる傾向があり、建設キャリアアップシステム(CCUS)への対応も早い段階から求められてきました。同じ「施工管理SaaS」というくくりでも、土工事なのか舗装工事なのか橋梁工事なのかによって、優先すべき機能はかなり変わってきます。
本記事の範囲についての注記
この記事は、特定の企業への取材に基づく実際の導入事例を紹介するものではありません。工種ごとの一般的な業務特性を踏まえ、「この工種であればどのようなSaaS活用パターンが合理的か」を整理した内容です。個別のツール紹介・比較の詳細は、記事2〜6でご紹介している施工管理SaaS・安全労務管理SaaS・BIM/CADツールなどの比較記事もあわせてご覧ください。なお、Ochi自身のゼネコン現場経験は建築工事が中心であり、土木工事の現場代理人としての経験があるわけではない点も、あらかじめお断りしておきます。
工種別に見るSaaS活用パターン
1. 土工事・造成工事:ICT施工とデータ連携がカギ
土工事・造成工事では、ドローンによる測量データやICT建機(マシンコントロール・マシンガイダンス対応の重機)から得られる施工データをどう一元管理するかが論点になります。ここでは施工管理SaaS自体よりも、測量・出来形管理に特化した専用ソフトとの連携可否を確認することが重要です。一方で、日々の作業日報・工程管理・写真管理といった基本業務は、ANDPADやKANNAのような施工管理SaaSでカバーできる部分も多く、ICT施工の専用データと日常業務のSaaSをどう役割分担させるかを最初に整理しておくと、後々の二重管理を防げます。
2. 舗装工事:出来形管理と写真業務の効率化
舗装工事は工期が短く、同時並行で複数現場が進むことが多いため、出来形管理書類と工事写真の作成スピードが利益率に直結します。電子小黒板を使った写真の自動仕分け・台帳作成に対応したサービス(蔵衛門クラウドなど)を導入すると、従来デジカメとExcelで行っていた台帳作成の手間を大きく圧縮できます。舗装工事のように現場数が多い会社ほど、写真業務の効率化がSaaS導入の投資対効果を実感しやすい工種だといえます。
3. 橋梁・トンネル工事:安全管理と労務書類の徹底
橋梁・トンネル工事は高所作業や重機との近接作業が多く、労働災害のリスクが相対的に高い工種です。協力会社の建設業許可・社会保険加入状況・資格証の期限管理といった労務安全書類の徹底が欠かせず、グリーンサイトを軸にした安全書類管理の効率化(Greenfile.workやBuildeeのような専業サービスの活用)が特に効果を発揮しやすい領域です。加えて工期が長期にわたることが多いため、原価管理SaaSによる出来高・実行予算の進捗管理も重要になります。
4. 河川・上下水道工事:官公庁提出書類と電子納品対応
河川・砂防・上下水道工事は、官公庁への提出書類の様式や電子納品要領への準拠が厳格に求められる工種です。施工管理SaaS選定時には、日常の工程・写真管理機能だけでなく、電子納品対応のフォーマットに出力できるか、既存の台帳作成ソフトとの互換性があるかを事前に確認することをおすすめします。すでに電子納品対応の写真管理ソフトを使っている場合は、クラウド型のサービスに切り替える際にデータ移行がスムーズにできるかも、選定時の重要なチェックポイントです。
経営者目線で見るポイント
経営者にとっての論点は、「全工種に共通する基盤(施工管理・原価管理・安全労務)にどこまで投資するか」と「工種特有の課題(ICT施工、出来形管理など)にどこまで専用ツールで対応するか」の切り分けです。すべての工種を同じSaaSでカバーしようとすると帯に短し襷に長しになりがちなので、まずは自社の主力工種を1つ決め、その工種で最も工数がかかっている業務からSaaS化を始めるのが現実的なアプローチです。
現場代理人目線で見るポイント
現場の実務担当者にとっては、官公庁の検査・提出物の様式にきちんと対応できるかどうかが最優先事項になります。どんなに便利な機能があっても、発注者側に指定された様式で書類が出せなければ現場では使えません。導入前には、実際に自社が受注している官公庁・自治体の様式に対応できるか、公式サイトの問い合わせ窓口や営業担当に具体的に確認することをおすすめします。
Ochi視点コメント
私自身のゼネコン現場経験は建築工事が中心で、土木工事の現場代理人としての実務経験があるわけではありません。ただ、建築現場でも土木工事の協力会社とやり取りする場面はあり、官公庁提出書類の様式の細かさや、労務安全書類のチェックの厳格さは、建築以上に徹底されている印象を持っていました。工種によって「何にいちばん時間を取られているか」がはっきり異なる業界だと思うので、この記事で紹介したような工種別の切り口で、自社の悩みに近いところから検討を始めるのが遠回りしないコツだと感じます。
導入を成功させるための3ステップ
- ステップ1:自社の主力工種と、その工種でいちばん時間がかかっている業務を洗い出す(写真台帳作成なのか、出来形管理なのか、労務書類のチェックなのか)
- ステップ2:官公庁提出物の様式・電子納品要領への対応可否を、候補サービスの営業担当に個別に確認する
- ステップ3:本格導入の前に、1現場・1工事だけで試験導入し、現場から実際の使い勝手のフィードバックを集める
まとめ
土木工事会社のSaaS選びは、建築向けの一般的な比較記事をそのまま当てはめるのではなく、自社が主に手がける工種の業務特性から逆算して考えるのが実態に即しています。土工事・造成であればICT施工とのデータ連携、舗装工事であれば写真業務の効率化、橋梁・トンネル工事であれば安全管理の徹底、河川・上下水道工事であれば官公庁提出書類への対応と、工種ごとに優先すべきポイントは異なります。まずは自社の主力工種を軸に、この記事で紹介した観点から検討を始めてみてください。
個別のSaaSの詳しい比較は、施工管理SaaS・安全労務管理SaaS・BIM/CADツールなどの比較記事もあわせてご覧ください。

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